好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
「何で?」
答えず俯く私。
「俺に言えないこと?」
畳み掛けるように問われて、フルフルと首を横に振る。
「じゃあ、何で? 何で電話もでない?」
不機嫌さが微かに混じる桔梗さんの困ったような声。
どう伝えたらいい? あなたが好きだから彼女がいないって言われてショックだったからって言えば、わかってくれる? だけど、私が好きだって言ったらあなたは離れていくんだよね?
この関係は終わってしまう。それはできない。まだ今は耐えられない。私の頭が必死に言い訳を考える。
「ち、チョコ、をほかの子から貰ったって聞いてショックだったからです」
苦し紛れに言う私。
「は?」
怪訝な顔をする桔梗さん。
「チョコって、昨日のバレンタイン? あー桃ちゃんとか唯ちゃんとかからの?」
……あの告白された女性以外からも貰ってたんだ、やっぱり。
しかもこの支店内の女子社員。さすが瀬尾さんと共に我が社きっての独身イケメン。きっともっと貰ってるだろうな。
ほかの女性にも告白されているかもしれない。自分で振った話題なのに胸がキュウッと痛む。
「支店内の女の子は皆、義理だし! 別に藤井が気にするような特別な感情はない。隠してた訳じゃないし」
明かに覇気のない私に困ったように話す桔梗さん。
特別な感情、それを抱いている女の子はいっぱいいる。桔梗さんが知らないだけ。私のように隠してる女の子がいることに、桔梗さんが気づいていないだけ。
「ヤキモチ?」
さっきまでの剣呑な空気を一変させて、桔梗さんがいたずらっぽくチョコレート色の瞳で私を見つめる。答えない私を桔梗さんの長い腕がそっと抱きしめた。
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