好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
桔梗さんと店内で顔を合わせると、気持ちが溢れそうになって平常心を保つことが難しい。ドキドキと鼓動が耳に響くくらいに胸が苦しくなる。
なのに近くにいられる、声を聞ける、姿を見ることができる、ただそれだけのことが嬉しいなんて悲しい矛盾。男性に対して抱く初めての気持ち。
反対に桔梗さんの顔を見られない時、声が聞けない時は、無意識に桔梗さんのことを考えてしまう。寂しさを感じてしまう。
相変わらず桔梗さんは忙しい。桔梗さんからは電話ではなく、メッセージに代わる日が続いている。私自身も研修や来客があったりで支店内にいる時間がすれ違っている。
寂しい、と口に出せたらどんなに楽だろう。寂しい、と口にしたらどうなるのだろう。
驚かれる? 笑われる? 何でって尋ねられる? 
その答えはたったひとつ。
あなたが好きです。
きっとあなたが私に向けてくれる気持ちよりも。
そう言えたら、堂々めぐりのこの気持ちは何か変わるのだろうか。
だけどその代償にあなたを失うことになるのなら、私は今の状態を耐える方を選びたい。
そう思う私はやっぱり意気地無し。気持ちを我慢する度量もないのに、想いを告げる勇気もない。弱音ばかり、願望ばかり、こんな自分が嫌になる。
恋をしなければ、恋愛スイッチなんか入らなければ良かった。
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