私の最後の夏の思い出
戻ってくると瑞樹くんは既に起き上がって帰る準備をしていた。
「帰っちゃうの?」
 私はそう聞くと瑞樹くんはうん、と言ってから
「明日、朝9時に迎えに来るから。待っててね。」
 と付け加えて、私の返事も待たずに帰っていった。帰っちゃった、と小さく呟いてからおばあちゃんのいる台所の方へ行く。
「瑞樹くん、帰っちゃった。明日の朝9時に迎えに来るって。」
 私がそう言うとなぜかおばあちゃんはニヤニヤしていた。
「おやおや、デート?若い者同志、楽しんできてねぇ。」
 そんなことを突然言われて一瞬ギョッとする。違うのだから否定すればいいのに、デートという響きに思わずうっとりしてしまう。
「デート…。じゃ、ないよ!ただ昔みたいに遊びに行くだけ!」
 そういってからささっと奥の部屋に逃げ込む。ピシャッと襖をしめてはあ、とため息をつく。
「デートって言って、いいのかなぁ…」
 しばらく突っ立ったまま考えていたが、ふと思い出して持ってきたカバンを漁る。夏休みの宿題用とは別に、自分の日記を持ってきたはずだ。
「あった。」
 これからきっと、何かが起こる。『運命』という言葉が似合う出来事が。なぜかそう思った。それに、日記に書き留めておきたいことはもう一つある。
「私、こっちにきてからだいぶ変わったよねぇ。」
 自分で言うのも変だけれど、前よりも感情が豊かになって、言葉を発する回数や、笑顔の回数が増えた気がする。
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