私の最後の夏の思い出
「取り敢えず、帰ろう。今後どうするか、三人でちゃんと話し合おう」

お父さんがそう言って立ち上がった。それに続いてお母さんが立ち上がる。
お父さんに肩を抱かれてお母さんが出て来た後を私は続いた。

外に出ると、クーラーの効いていた室内と外の温度差にどっと汗が噴き出してきた。
頭がクラクラして、今さっき伝えられたことは夢か何かだったのでは無いかとすら思えてくる。
お父さんとお母さんも、暑さのせいか少しフラフラとしながらタクシーに乗り込んだ。
お父さんが前で、私とお母さんが後ろ。まだ泣いているお母さんの吐息と、車の揺れる音だけが車内に響いていた。

家についた後も、お母さんは泣き止まなかった。

「お母さん、泣かないでよ。三ヶ月なんて、時間沢山あるじゃない。それに余命宣告された後も生きている人はいる。私は、大丈夫だから」

私がそう言って微笑むと、お母さんはさらに大声で泣き喚いた。
大丈夫、私はそう言ったけど、大丈夫じゃないことぐらい分かっている。
お父さんとお母さんもそれを分かっているから、安心できないんだ。

でも私は、なんでお父さんとお母さんがそんなに悲しんでいるのかが分からなかった。
別に私が生まれる前は二人だけだったんだし、二人は大丈夫でしょう?

私は死ぬことを悲しいとは思わない。
友達だって、ただ一緒にいるだけ。別にいてもいなくても変わらない。
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