私の最後の夏の思い出
ー2章ー
「行ってきます」

夏休み初日の朝七時半、私は一ヶ月分の旅行の荷物を持って玄関に立っていた。
しっかりと目が覚めて出かける準備バッチリの私を、まだパジャマを着たままのお父さんとお母さんが見送ってくれた。
寝癖もそのままのお母さんと一応顔だけは洗ってあるお父さん。二人とも私を送って行く気なんてサラサラないようだ。
まあ、いいけど……。

「行ってらっしゃい、気をつけてね」

「宿題も、ちゃんとやれよ?」

お父さんとお母さんの言葉に頷いてから、家を出る。
昨日、終業式があった後に友達と遊ばずにまっすぐ家に帰ると、私は旅行の準備をした。
私は、今日から八月三十一日までの一ヶ月間をおばあちゃんの家で過ごす。
おばあちゃんの家に最後行ったのは、確か私が小学校中学年の頃。それから丸六、七年間も行っていない。

私には、最後にそこへ行った時の記憶がない。それでも楽しかった気持ちだけは残っていた。

「二人とも、元気にしてるかなぁ……」

二人の笑顔を思い出して、思わず顔がほころぶ。
改札をくぐって、ホームに滑り込んできた新幹線に乗る。
座席に座って、最近ハマっているミント飴とお気に入りの小説を取り出す。
しばらく飴を舐めながら小説を読んでいた私の脳は、だんだんと思考回路が鈍ってきた。昨日寝るのが遅かったから疲れてるのかな、とか考えていた私は、いつの間にか夢の世界に入り込んでいた。
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