黒魔術
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薄暗い部屋の中で、黒いフード付きのローブを身にまとった少女が、机の前に座っている。
フードの陰から見えるその顔は、しいなだ。
彼女は今身を乗りだして、机の上に置いた、たてよこ30センチぐらいの箱の中を、虫メガネでのぞきこんでいる。
箱の中にあるのは小さな町の模型だ。
模型の町の中を、アリのように小さなものが立って動いている。
虫メガネで拡大して見えたそれは、森本コオだとわかる。
しいなが魔術を使い、コオの体を極限まで小さくしたのだった。
「ふふふっ、コオ君て、やっぱりかわいい」
まっ赤なルージュを引いた唇のあわいから毒々しい笑い声がもれ、とがった歯が光る。
「これからは、コオ君はずっとあたしのものよ。もう、あんな、はるかなんて女がコオ君に近づいたりすることもないわ。だって……」
しいなは左のほうへ目を向ける。
机の少し左のほうに、もうひとつ同じ形をした箱が置かれていた。
その箱の中にも、同じようなミニチュアの町がある。
その町の中を、アリのように小さくなったはるかが、泣きべそをかきながらさまよい歩いていた。
(了)