黒魔術

しいなの目から見ても十分に美しい母は、若いころから魔術を使って男をたぶらかしてきた、という。亡くなった父とだって、魔術を使って結びついたのだと、臆面もなくしいなに言ってきかせた。

しいなはいっそう反発した。

中学のころ、すでにクラスメートの間で「しいなは魔女の家系」といううわさがひろがっていた。そんなこともあって、高校は遠く離れた縁もゆかりもないところを選んだ。父方の親戚の家に下宿までさせてもらって、こんな遠方に来たのだ。

それなのに、こうして「魔女」という言葉が追いかけてくるのだった。

(そんな力、あたし、封印しているのに)

これでもうコオ君に嫌われてしまう、としいなは絶望的な気持になった。

しかしコオは、ふふん、と鼻でせせら笑った。

「なんだよ、それ。魔女? ばかばかしい」

「ほんとうだよ? ほんとうに魔女なんだって。気持ち悪くない?」

「おれは別に魔女なら魔女で、かまいやしないよ」

しいなはハッとして胸をおどらせた。

(コオ君……)

コオは魔女のうわさも、魔女であることも、なにも気にしていないのだ。

< 6 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop