黒魔術
しいなの目から見ても十分に美しい母は、若いころから魔術を使って男をたぶらかしてきた、という。亡くなった父とだって、魔術を使って結びついたのだと、臆面もなくしいなに言ってきかせた。
しいなはいっそう反発した。
中学のころ、すでにクラスメートの間で「しいなは魔女の家系」といううわさがひろがっていた。そんなこともあって、高校は遠く離れた縁もゆかりもないところを選んだ。父方の親戚の家に下宿までさせてもらって、こんな遠方に来たのだ。
それなのに、こうして「魔女」という言葉が追いかけてくるのだった。
(そんな力、あたし、封印しているのに)
これでもうコオ君に嫌われてしまう、としいなは絶望的な気持になった。
しかしコオは、ふふん、と鼻でせせら笑った。
「なんだよ、それ。魔女? ばかばかしい」
「ほんとうだよ? ほんとうに魔女なんだって。気持ち悪くない?」
「おれは別に魔女なら魔女で、かまいやしないよ」
しいなはハッとして胸をおどらせた。
(コオ君……)
コオは魔女のうわさも、魔女であることも、なにも気にしていないのだ。