黒魔術
気がつくと、となりの部屋から、コオとはるかの姿は消えていた。
部屋の中にさしこむ光は弱々しく、日暮れが近いことを示している。
しいなは戸を開いて、資料室に足を踏み入れた。
一歩、二歩……三歩。
首を垂れたまま、足を止める。
「そう……そうなの。そういうことだったの……」
絶望の色がつぶやきに混じっていた。
そしてしばらくの間、沈黙があたりを支配した。
と思ったら、ふいに、
「ク……クク……」
うなだれた彼女ののどから、低く、くぐもった笑い声がもれだした。
しいなは頭を上げた。
彼女の顔には笑みが浮かんでいだ。唇の端をつり上げ、牙のような糸切り歯をむき出しにしていた。邪悪な笑みだった。
「クックックッ……」
その笑い声はしだいにかん高くなり、まるでひび割れた金属を連想させるようなものへと変わっていった。
窓の外では、何匹ものコウモリが、黒い体を空中にひるがえらせていた。