あけぞらのつき
それは、アキから遠野に渡された書状だ。
ミサキは、やはり不機嫌そうにため息をついた。
「ここに書いてある。主様に、味付けの濃いもの、及び、しょうゆは与えぬこと。やむを得ず、しょうゆを扱うときは、必ず誰かが主様のそばで注意すること」
「……」
「俺が意地悪で言ってるわけではなく、ここに書いてあるから、仕方なしにそうしているだけだ。わかったなら、さっさと飯を食え」
「しょうゆのない卵を食べるくらいなら、砂を噛んでいた方がマシだ」
遠野は大きなスプーンで野菜スープをすくい、口に入れた。
味わうようにゆっくり飲み下し、なるほどなと、小声で呟いた。
「ミサキが毎朝そう駄々をこねるから、うちの料理番も困っているようだぞ」
本当は料理のせいじゃない。ミサキもそれは理解している。
目覚めた後にアキのいない寂しさを、食事に八つ当たりすることで、ごまかしているだけだ。ミサキは遠野の言葉に、目を上げた。
「わたしのせいで、困る者がいるのか?」
「そうだな。毎朝毎朝そう食事を嫌がられては、料理番も悲しむだろうな。スープくらいは飲んでやれんか?」
ミサキは恐る恐るスプーンを手にとって、野菜スープと遠野を交互に見つめた。
ミサキの腹の虫が鳴いた。
一口流し込んだ液体からは、微かにしょうゆの香りがした。