あけぞらのつき
「ミサキもだいぶ変わっているが、あの保護者はそれ以上だな。過保護というか、親バカというか、心配性というか」
「アキの悪口は、わたしが許さない。だいたい、わたしたちは、お前の為に協力してやってるんだ。アキも好きでわたしを送り出したわけじゃない。ハスミがどうしてもと頭を下げるから、仕方なしに、アキが妥協してやったんだ。感謝しろ」
「ハスミ……?ああ。あの眼帯の修験者な。古い書き付けに、隻眼の覡に相談せよとあったが、本当にいるとは思ってもみなかった。あれは、何者なんだ?山には片目の修験者がそんなにいるのか?」
「そうだな。山にいる一本ダタラは、たいてい片目片足だ。でもハスミは、ただの人間だろう?その証拠に、ハスミは私のシアターに入れない」
「俺には、ただの人間とは思えなかったがな。山の怪異とも精通しているようだったし」
「ハスミが山をよく知ってるのは、当たり前だ。200年から修行していると言っていた」
ミサキは2つ目のアルミ箔を丁寧にはがし、嬉しそうにかぶりついた。
「お前の料理番、名前は何と言うんだ?」
「名前がどうかしたのか?」
「ああ、うん。今まで、悪かったなって……思って。わたしのせいで、困ってるなんて、思ってもみなかったから」
ミサキは珍しく、神妙な顔で俯いた。
その表情はさすが、孤高の眠り姫と噂されるほどに美しい。
ただし、口を開かなければ。
遠野はふふっと笑って、ミサキの頭を、ぽんぽんと撫でた。