あけぞらのつき
シアター

***

古い映写機が、カタカタと音を立てて回り始めた。

薄ぼんやりと光り始めたスクリーンには、ノイズ混じりの映像が映し出される。


今日の上映は、悪夢か淫夢か。



神森鏡偲(かみもりみさき)は、小さなシアターの狭いシートに深く腰を下ろして、スクリーンを見つめた。



それは、何度も見たことのある、古い夢だ。嘘か本当か、最後まで見ると死んでしまうと言う。

通称、猿夢。サルユメ。


古典的な悪夢に、ミサキはつまらなそうなため息をついた。


このシアターで何度も見た、定番の悪夢だ。

カラーの日もあれば、モノクロの日もある。今日はセピアか。


フィルムが劣化でもしているのか、スクリーンには時折、ノイズが走る。



電車の中の光景だろう。


乗客は皆、一様に下を向き、何かから目を逸らしているようだ。



「……ケェヅ、ク…ロォ……い…」

妙に間延びしたアナウンスがかかった。



「イケヅクリ」

ミサキが小声で訂正した。何が起こるのかも、わかっている。



狙われた乗客に、人とも鬼ともつかない、小さな蠢くモノたちが襲いかかった。


アナウンスの言ったとおり、乗客は生きたまま皮を剥がされ、解体されていく。

赤い肉塊と化したカラダの真ん中で、心臓だけが、とくんとくんと脈打っていた。



他の乗客は、静かに行われた解体ショーを見ることもなく、ある者は目を伏せ、ある者は手を握り、自分じゃありませんようにと、祈っているようだった。




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