あけぞらのつき
「起きたのなら、話しを聞かせてもらおう。ミサキ、お前は小野寺の病院で何を見たんだ?」
ミサキはチラリと遠野を見て、また出たと呟いた。
「湧いて出るのは、夢の中だけにしろよ」
まだ寝ぼけているのか。
ミサキには、アキの腕の中が夢だという実感がないようだ。
ミサキにとっては、夢も現実もさほど変わらないという事か。
「まだだ」
「何が?」
「お前の本体は、まだ、目覚めていないと言ってるんだ。ここがどこかわかっているのか?」
「どこって。アキのそばだ。この世で一番、安全な場所だろ」
なおも言い募ろうとした遠野を、アキが片手で制した。
「御曹司。主様は目覚めたばかり。そんなにきつく責め立てずとも」
「守護殿が甘やかすのは、ミサキのためにならない」
遠野はきっぱりそう言って、ミサキの手首をつかんだ。
古い映写機が、カタカタと音を立てて回り始めた。
「だからと言って、御曹司のやり方は、荒すぎる」
スクリーンには先ほどと同じ、病院の景色が映し出された。
若干視点が低いのは、それを見ているのが遠野ではなく、ミサキだからだろう。
「俺のも食うか?」とスピーカーから、遠野の声が流れた。
見上げるアングルで、遠野が映る。
その表情は、アキを責められぬほどに優しい。
思いがけない自分の姿に、遠野は口元を押さえて、目を背けた。
自分はいつの間に、あんな表情を覚えたのだろう。
「御曹司」
アキが冷たく呼びかけた。