あけぞらのつき
蠢く闇
***
それはかつて、小野寺仰以と呼ばれていたものだ。
利発そうだった目元に眼球はなく、黒く空いた眼窩でこちらを見つめていた。
すでに白骨と化した指先を伸ばして、何かをつかんだ。
映像は、もやのかかったように端から白くなり、やがて消えた。
「今のは……」
「誰かの、悪夢でしょうか」
アキはミサキの耳元で、ここには入れませんと繰り返し囁いた。
ミサキはまだ怯えたまま、アキにしがみついていた。
普段は強気な彼女からは、想像もつかない姿だ。
「悪夢だとしたら、夢の主は小野寺の知り合いか?」
「ですが、彼があの姿になっていることを知っているのは、主様だけでしょう?」
そうだ。遠野ですら、現実の小野寺仰以は生きているように見えていた。
死体が動いていると知っているのは、ミサキだけ。
いや、本当にそうだろうか。
遠野は顎に手を当てて、目を閉じた。
「あるいは、小野寺本人……」
「え?」
「守護殿の言うように、タマシイの抜けた小野寺の体に何かが入り込んだとして、もしかしたら、タマシイはまだ、体の近くにいるんじゃないか?」
「御曹司は、主様が、小野寺のタマシイが見た夢を再生したと、そう言いたいのか?」
「あるいは、だ。小野寺本人なら、体が死んでいると、もちろん知ってるだろう」
アキは、うつろな目をして短い呼吸を繰り返しているミサキを、そっと抱きしめた。
「できることなら、小野寺の母親に、最後の挨拶をさせてやりたい」
「御曹司……」
「俺は、小野寺のタマシイを探す」
遠野はそう言って立ち上がった。