あけぞらのつき
「探さずとも、そこに」
アキの腕の中で、うつろな目をしたミサキが指した。
いつもとは様子が違う。
「主様……?まさか……長夜叉様…?」
まとう雰囲気は、いつものミサキではない。
半信半疑のまま、アキはミサキを下ろして、その裸足の足下にひざまづいた。
ミサキはアキに目をくれることもなく、客席の絨毯を踏んだ。
舞台に上がり、スクリーンへ向かって手を伸ばした。
遠野は何が起こったのかと、瞬きすら忘れて、ミサキを見守った。
ミサキは白く発光するスクリーンに手を差し込み、何かを取り出した。
人の手だ。
それは、ミサキに導かれるように、姿を現した。
「小野寺仰以……」
遠野は呆然と、その人物の名を呼んだ。
***
ミサキに手を引かれた少年が、舞台の上で、眩しそうに目を細めた。
小野寺仰以。栗色の髪をした、利発そうな少年だ。
自分の身に何が起こったのか、理解していない様子で、二重瞼の大きな目を瞬いた。
「一体どこから……」
遠野が、誰にともなく呟いた。
ミサキは糸の切れた操り人形のように、崩れ落ちた。
膝を付くより一瞬早く、遠野の手がミサキを支えた。
「ミサキは今、何をしたんだ?」
遠野は、小柄なミサキの体を、易々と抱き上げて尋ねた。
ミサキはうつろな目でぐったりと遠野にもたれたまま、無言だ。
「守護殿!!」
ひざまづいて俯いたままのアキを、遠野が呼んだ。
「……」
「何が起こったのか、説明してくれ」
アキは呼吸を整えて立ち上がり、ミサキを見つめた。
「何でも、ありません。ここは主様のシアター。主様にできないことなどない、というだけです」
夜が明ける。
シアターは、朝日の中に霧散した。