あけぞらのつき
「ああ。小野寺の死体からは、まっくらと同じ気配がしていた。でも、タマシイはまっくらになっていなかった。わけがわからない」
ミサキは二杯目の白米を受け取りながら言った。
わけがわからないのは、お前だ。と遠野は内心思う。
「まっくらとは、何なんだ?」
「ああ?うん。夢を渡る、怪物だ」
「病院で怖いと言った気配のことか?」
そうだ、とミサキは頷いた。
「冷静に考えれば、まっくらは夢の中にしか現れない。小野寺の死体があるのは、現実の方だ。怖いなんて、わけがない」
怖くない、とミサキは自分に言い聞かせるように言った。
「だから、どうして現実の方にある小野寺の死体から、まっくらの気配がしたのか、調べてみたいんだ」
ミサキは料理を残すことなく平らげて、ごちそうさまと立ち上がった。
***
「本当に、大丈夫か?」
白藍は不安そうに、主人を見上げた。
「わたしに、大人になれと言ったのは、白藍だろ」
ミサキはブラウスの襟にリボンを通しながら答えた。
「だからって、わかってるのか?まっくらだぞ?」
「ここは現実だ。しかも人間の世界だよ、白藍。まっくらなんていないんだ。夢の中より、安全かも知れない」
「ミサキ、どうしちゃったんだよ……」
「どうって。遠野の捜し物は、見つかったんだ。わたしたちがここに居続ける理由はもうない。ただ、わけの解らないことを、そのままに帰るのは、癪だろう?」
言い出したら聞かないミサキの性格を、よく知っているのは白藍だ。
アキの言いつけには渋々従うミサキではあったが、白藍が何を言ったところで、聞くわけがない。
「なあ、白藍」
「ん?」
「まっくらって……。夢の中の怪物だよな?」