あけぞらのつき
「やっぱり、怖いんだろ?」
「……怖いよ。でも確かめたいんだ」
「何のために?ミサキのシアターに、アイツは入れない。それでいいじゃないか」
「そうなんだけどさ。妙にモヤモヤするんだ。まっくらが、現実にもいるような気がして」
「バカな。あれはサルユメと同じ程度のものだって、アキが言ってただろ」
「解ってる。でも、わたしは確かに、小野寺の死体から、まっくらと同じ気配を感じたんだ」
そして……。
ミサキはわざとアンバランスにリボンを結んで、そう言った。
***
その神社は、鬱蒼とした森の中に、ぽつんと置かれていた。
見上げるほどに長く延びた石段は、急で狭い。
年に数回程度、町内会の清掃活動が入る以外は、ほぼ無人に等しいような場所だ。
ミサキは軽やかな足取りで、石段をあがって、その鳥居をくぐった。
ヒトケのない森の中が余程気に入ったのか、口元には笑みさえ浮いている。
立ち止まった遠野の肩に、白い大型鳥類が止まった。
「いつもの眠り姫とは、別人だな」
「そうか?ここに来る前のミサキは、いつもあんな感じだった」
白藍が懐かしむように言った。
「ミサキは、何者なんだ?」
「そんなことを知って、遠野はどうする?」
「別に、どうというわけでもないが」
「アキとハスミから聞いたんだろ?ミサキは、死体から生まれた鬼の子だって」