あけぞらのつき
「夜叉の姫か。アイツならそれも本当かも知れないな」
「かもじゃなくて、本当なんだ」
遠野はミサキの後ろ姿を眺めて、ふふっと笑った。
「ミサキが鬼子だろうが夜叉姫だろうが、今更驚きはしない。ただ、気になるのが……」
「何?スリーサイズ?彼氏なら、いないよ」
「バカ。アイツのサイズなんか知ったところで」
「知ったところで何?遠野はミサキのサイズ、全部知ってるもんね。指の長さから、体の重さまで全部」
白藍が皮肉げに言った。
「それは、アイツの制服を作る時に、採寸したからだ」
「手の大きさが、制服に必要とは思えないけど」
「……。そんなことより。夢を渡る怪物とは何なんだ?」
「ああ、まっくらのこと?さあね。俺もよくは知らない」
遠野は何かを考えるように、顎に手を当てた。
ミサキの呼ぶ声が聞こえて、白藍は遠野の肩から弾みをつけて飛び立った。
遠野は考えることをやめ、ミサキの後を追った。
***
注連縄の巻かれた大きな木の前で、ミサキはふうんと呟いた。
ところどころに大きな釘が、打ち付けてある。
縁切り榎木。
小野寺仰以が、行方不明になった場所だ。
「この縄、懐かしいな」
と、ミサキが注連縄に手をふれた。
「山家にもあったんだ。アキが、そこから下は行ったらいけないと言っていた。これが巻かれているということは、この木が封印されていると言うことか?」
「これは、この木が神と認められているという意味だ」
「神?これが?傷だらけじゃないか」
「神と言っても、悪神・祟り神の方だろうな。丑の刻にこの木に釘を打つと、憎い相手を呪い殺すことができるそうだよ」
「そんなのは、嘘だね」
ミサキは注連縄を触ったまま、ぐるっと木の周りを一周して、断言した。