あけぞらのつき
シアターに、ザァッという雨音が聞こえた。外は雨が降り始めたのだろうか。
雨の匂いをさせた人影が、ミサキの隣に腰を下ろした。
「遠野。今日は、やけに遅かったじゃないか」
ミサキは人影を確認することなく、声をかけた。
「まあな。もうじき定期テストだろ。そうそう眠ってばかりはいられない」
低音の男の声が、ため息をついた。
「その言い方だと、まるでわたしが、眠ってばかりのように聞こえるが」
「間違ってはいない。ミサキ。お前、クラスの奴らに、なんて呼ばれてるか、知っているのか?」
「さあね。誰に何と呼ばれようが、興味はない」
お前らしい。と、遠野が笑った。
「孤高の眠り姫だと。眠ってばかりのボッチの陰キャラも、ずいぶん高貴なアダナを付けられたものだな」
狂った旋律で、オルゴールが鳴り出した。音は映像に遅れて付いてきているようだ。
アナウンスがやけにハッキリと、「エグリダシ」と言った。
「ただ眠っているわけじゃない。わたしは遠野に協力してやってるんだろ。不本意だ」
先ほどの小さな蠢くモノたちが、小さな金属片を手に手に、乗客の一人に狙いを定めた。
「わたしのシアターを提供してやってるんだ。早く探して来いよ」
ミサキは、遠野を見ることなく、冷たく言い放った。