あけぞらのつき
「何が、言いたい?」
「ここにあるのは、ただのカスだって言っただろ。でも、半年前から本体不在だったようには見えない」
「だが、現実に小野寺が消えていた期間は、半年なんだ」
「おかしいよな。計算が合わない」
ミサキは腕組みをして、柳眉をしかめた。赤い目をした大型の肉食鳥類が、ミサキの頭に止まった。
「白藍、重いよ。何か見つけたのか?」
「いや。何も。ただ、神の奉られている場所にしては、何というか……」
「恨みの念が渦巻いているんだろ?でもそれも今は、そうだっただろう気配だけだ」
「そうだな。ミサキ、まっくらは見つかりそうか?」
白藍の言葉にミサキは堅く目を閉じた。微かに体が震えている。
白藍には、幼い主人がその心の中で恐怖と戦っている様が、手に取るように理解できた。
だが、それを選んだのは、ミサキ自身だ。
ミサキは大きく息を吸って、怖くないと呟いた。
目を細めて、境内を見回す。
「ミサキ?」
「白藍、あれ!!」
ミサキは何かを見つけて、指をさした。
遠野は目に当たる光に、片手で影を作りながら、ミサキの指す方向を見上げた。
飛び立とうとした白藍の足を、ミサキが掴んだ。
「よせ、白藍。あれに触れたらダメだ」
「どうして?あんな高いところに刺さってたら、よく見えないだろ?俺が取ってきてやる」
「バカ!おかしいと思わないか?あんなところ、人間の手が届くわけないじゃないか」
ミサキは白藍を掴んで引き戻し、小脇に抱えた。
「カンザシだ」
遠野が低い声で呟いた。
「翡翠の玉の付いたカンザシが、刺さってる……」
無機質のカンザシは、見上げる三人をあざ笑うかのように、きらりと鈍く輝いた。