あけぞらのつき
凍える時間

***

ひとつ、ふたつ……と、ミサキは歌うように数を数える。


ひとつ、ふたつ、みっつ……。



「ねえアキ。最初に落ちてきた雪は、どこへ消えたの?」


温室の中から雪空を見上げて、幼いミサキが問う。



「主様。そんなお寒いところにおらずとも、こちらで暖をお取りになられませ。お風邪を召してしまいますよ」


「だって、最初に落ちてきた雪は、溶けて消えるだろ?でも、ちょっと目を離すと、そこには雪が積もってるんだ」



温室とは名ばかりの空間は、底冷えして寒い。


ミサキは小さな両手に、はあっと息を吹きかけた。


「一番最初の雪を、見てみたいんだ」



アキは、ミサキを暖かい室内に入れるのを諦めて、ミサキの傍らに寄り添った。



「一番最初の雪をみたとして、主様は、いかがされるおつもりなんですか?」


「どうもしないよ。ただ見たいと思ったから、見たいだけだ。理由なんか、必要ない」


「ですが、ここで待っていたら、主様が凍えてしまいます」



心配そうに言ったアキを振り返って、ミサキは笑った。


大丈夫と言いながら、アキの着ている羽織の中に潜り込む。



「主様」


「大丈夫。アキのここが、一番暖かいんだ」



アキは、仕方ありませんと羽織を脱いでミサキに着せた。



「アキ……?」

不安そうにミサキが呼んだ。


アキは大きな毛布を持って、ミサキのそばに腰を下ろした。


ミサキは嬉しそうに、アキの膝に抱かれて、天窓を眺めた。



ひとつ、ふたつ……。

ミサキは歌うように数を数える。



最初に積もる雪片はどれだろうかと、探しながら。





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