あけぞらのつき
「僕は母と神社の掃除をして……。それで、目が覚めたらここにいたんです。入学式は……」
小野寺はすがりつくように、ミサキを見つめた。
「入学式なら半年前に。今は、秋も終わる時期です」
香りと同じ、甘く透き通った声でアキが答えた。
「そんな……。僕は春から、臨さんと同じ学校で……」
「お前。わたしと同い年なのか?」
「はい……え?……あの…」
「わたしも、遠野と同じ一年生だ。薄々気付いてはいたんだ。わたしが子供のようではなく、遠野が老けてるんだって」
ミサキはにやっと笑って、なあ、と舞台の人影に呼びかけた。
***
堅い靴音をコツコツと響かせて、低い男の声が笑った。
遠野家の跡取りは、夢の中でも制服のタイを緩めない。
「老けていて悪かったな」
「臨さん!」
「タカユキ。久しぶりだな」
舞台から降りた遠野に、小野寺仰以は嬉しそうに駆け寄った。遠野は、タカユキと懐かしそうに名を呼んで、目を細めた。
「臨さん。僕……あの…」
「大丈夫だ。タカユキが心配することは、何もないよ」
「でも、あの……お…。お嬢さんが、僕は死んだって」
タカユキは一度女の子と言いかけて、お嬢さんと訂正した。
孤高の眠り姫などと呼ばれていることを知らないタカユキでさえ、気軽に話しかけられない雰囲気を、ミサキは持っていた。
「体は生きている。病院で管理され、健康だ」
遠野の言葉に、タカユキは安心したように、息をついた。
いきなり見知らぬ少女に、死んでいるのかと問われれば、不安になるのも当たり前だろう。
だが遠野は、「体は」と言った。自分はここにいるのに、どうしてわざわざそんな風に言ったのか、タカユキはイヤな予感がした。
「臨さん。僕、どうなってるんですか?体は病院て。ここ、病院じゃないですよね」
「そうだな……」
「やっぱり僕は死……」
「タカユキ!」
タカユキの言葉を遮るように、遠野が名を呼んだ。
「お前は今、混乱しているんだ。それは、わかるな?」
「……はい。あの、僕……」