あけぞらのつき
「ここは、そうだな。言うなれば、夢の中だ。夢と現実の間にある」
「夢と現実?」
「そうだ。タカユキの体は、死んだわけじゃない。それにお前はここにいる。体と心が離れてしまっているんだ」
「そんな……」
タカユキは両手で顔を押さえて、座り込んだ。
「お前、半年もの間、どこに行ってたんだ?」
ミサキが遠巻きにタカユキを眺めながら尋ねた。
「僕……あの。半年って……」
「ミサキ、そう急かすな」
「普段と言ってることが違うじゃないか。わたしからは容赦なく記憶を引き出すくせに。そいつにも、同じことをしてみろよ」
「タカユキは、ミサキと違って繊細なんだ。昔から…」
「何だよそれ」
「なんと言えばいいか」
遠野は言葉を探すように、視線を彷徨わせた。
「霊感が」
「は?霊感?」
ミサキはあからさまに胡乱な視線を向け、遠野は疲れたようなため息をついた。
「タカユキには、ヒトには見えないものが見える時があるんだ。カンも妙に鋭い。神隠しと言われて、俺が完全に否定できなかったのも、タカユキならあるいはと思ったからだ」
「どうして、最初からそう言わなかったんだ」
「幽霊だの妖怪だの、そんなもの、いるはずがないと思っていたからな。高校生にもなって、霊感なんて信じてる方がおかしいだろ」
ふふっと、ミサキの傍らでアキが笑った。
「遠野と言えば、有名な術師の一族。御曹司がそんな風に考えていたとは。時の流れは、早いものです」
「アキ、術師って?」
「御曹司はともかく、遠野の者は凄かったということです」
「アキよりもか?」
「ええ。御曹司の祖の中には、まっくらを封印した御方もいらっしゃったのですよ」
アキは遠い記憶を懐かしむように告げた。
「まっくらを、封印?」
ミサキは驚いた表情で、アキを振り仰いだ。
「そもそも、お前たちの言うまっくらとは、何なんだ?」
「事件とは……関係ありませんから」
遠野の問いかけに、アキはミサキを守るように抱きしめて言った。
その口調は、昔の思い出を語りすぎたと、後悔しているようでもあった。