あけぞらのつき

ミサキは、アキの腕からするりと抜け出して、座り込んだままの小野寺仰以を見下ろした。



「こいつがいなくなったという場所を見てきたんだ。ヒトの恨みでケガレた木に、まっくらの気配があった。わたしには、無関係とは思えない」


「ですが、主様……」



ミサキがそれを何より恐れていることを、アキは知っている。


できれば幼い主人には、聞かせたくない話だ。


怖がらせたくないと言外に含ませるアキに、ミサキは大丈夫と頷いた。



「もしまっくらが現実にいるならば……。現実ではきっと、わたしの方が強いに決まっている。わたしは」


人間だからな。

ミサキはその瞳に、決意の色を浮かべて言った。


***

まだ子供だと思っていたのに。


主人の成長に、アキは戸惑いを隠せず動揺した。

最愛の主人が、自らの力で恐怖を乗り越えようとしているのだ。


まだ自分の手の中にいて欲しいと、アキは思う。



だが、主人を禁域の外へと送り出したのもまた、アキ自身だった。



「アキ」


「……え。ああ。申し訳ありません」


「まっくらは、現実にいると思うか?」



ミサキは真っ直ぐアキの目を見つめた。



「わたくしには……わかりかねます」


「守護殿。知っているのなら教えて欲しい。ミサキの恐れるまっくらとは、何者なんだ?」



「……。鬼です」

アキは、観念したように小声で囁いた。



「鬼?」


「ええ。鬼、疫、邪神。その時代によって名の変わる、悪意のような存在です」



「悪意?」


「人心を惑わし、寿命を食らう怪物。現実の方にいたとは、聞いたことがありません」


「でも、ミサキは現実に……」



「主様が間違うわけがありません。人間の世界にまっくらが出たとするなら、それは、誰の覚えもない程に、強大な力を持ってしまったということなのかも知れません」



握りしめられたミサキのコブシが、微かに震えていた。


「……原因は…」


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