あけぞらのつき
呪いの行方


***

山家の自室で目覚めたアキは、言い知れない不安に襲われた。


ミサキと一緒に使っていたベッドは、一人寝には広すぎる。

禁域を出てから、ミサキは確実に成長している。そして、あの瞳。


呪い退治だと言った瞳に浮かんでいた、強い光。


アキの知るミサキは、あんな目をしたことなどない。一度として。

だが、アキにはあの目に覚えがあった。


小野寺仰以をスクリーンから取り出した時も、そうだった。


いくらミサキのシアターとはいえ、他人の夢の残滓から、ヒトを引き込むなんてできるわけがない。

そしてやはり、アキの知る限り、それができるのは一人だけだ。



「長夜叉様……」


アキはベッドから降りて、部屋を出た。


確かめておきたいことがある。眼帯の修験者は、今日はどこにいるだろうか。


***

青い空の高くに飛び立っていった白藍は、まだ戻らない。


ミサキは、病院の見える公園で弁当を広げた。それは、遠野の料理番が作ってくれたものだ。


一見すると、晩の残りを詰めたようにも見えるおかずだったが、そのどれもが、早朝から丁寧に仕込まれた料理だと、ミサキは知っている。



遠野が料理番などと呼ぶものだから、恐ろしげな男性をイメージしていたが、実際料理を作っていたのは、笑顔の似合う婦人であった。


年の頃は、見た目だけではわからない。


「嬢ちゃま」とミサキを呼ぶ料理番は、作る料理と同じく、優しい雰囲気の女性だった。



お母さんがいたら、あんな感じなのかも知れない。


ミサキは、おにぎりのアルミ箔をむしって、大きな握り飯にかぶりついた。


窓から見える小野寺は、今日も点滴を打たれていた。



「普通は、体とタマシイが離れたら、死ぬだろ。小野寺の体が生きているのは、あの建物にいるからだよな」



遠野は自分の弁当を開くこともせず、病院を見つめていた。


ミサキの目を通さないで見るタカユキは、生きている姿と変わりない。
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