あけぞらのつき
どちらが本物なのだろう、と遠野は思う。
ミサキの言葉は、現実とは離れすぎていて、心のどこかで信じきれていない自分がいた。
「あそこから出たら、体は死んでしまうのだろうか?」
ミサキが独り言のように、呟いた。
「え?」
「小野寺の体が生きていられるのは、あの建物のせいだろ?」
「ああ。そうだな」
「あそこから離れたら、死ぬと思うか?」
「すぐに、とは思わないが。まあ、タカユキの体が死体であるなら、……死ぬだろうな」
「と、いうことはつまり」
ミサキは遠野の手からアルミ箔のおにぎりを取り上げた。
「小野寺に追われていた夢の主は、この近くにネグラがあるんだ」
「ミサキはどうして、そう思うんだ?」
「うん。わたしのシアターも万能ではない。遠方の人間の夢を覗くことは不可能だ。小野寺の体も、ここを長時間離れていると、生き続けることが難しいのなら、結論は一つだ」
「なあ、ミサキ」
「なんだ?」
「お前、あの時、どうやってスクリーンからタカユキを取り出したんだ?」
アキは、シアターの中でミサキにできないことはないと言った。
だがミサキは、シアターは万能ではないと言っている。
あの時、スクリーンに映っていたのは、タカユキの死体だけだった。
ミサキはどこからタカユキを取り出したのか、遠野はずっと疑問に感じていた。
それにあの時のミサキが、いつもとは別人のように見えたのもまた、事実だった。
「アイツを連れてきたのは、遠野だろう?アイツとはずいぶん親しそうだったし、わたしは何もしていない」
「タカユキは、ミサキがスクリーンから取り出したんだ。覚えて……いないのか?」
「ほざけ。わたしがそんなこと、するわけがないだろう。第一、小野寺とは面識がなかったんだ。スクリーンから人間を取り出す?どうやって?」