あけぞらのつき
邂逅
***
ふいに瞼が開いた。
部屋の中はオレンジ色の常夜灯が照らしているだけで、静かだ。
久しぶりにハスミと会ったことで、気が昂っていたのか、理由は別にあるというのか。眠りもそこそこに、ミサキは目を覚ました。
「ハスミ?」
呼びかけても返事はない。
ミサキを追いかけるように目覚めた白藍が、ぱさぱさと羽根を振るわせた。
「ミサキ……?」
「ハスミが、いない」
ミサキは泣きそうに声を震わせて、布団をめくった。
「遠野も……いない」
部屋を仕切るツイタテの裏まで確認して、ミサキは座敷の畳にへたり込んだ。
白藍は傍らでミサキを見上げた。
「ミサキ、シアターに戻ろう。夜はまだ長い」
「ハスミは……。わたしのシアターには入れないだろ。だから、一緒にいてとお願いしたのに」
「ミサキ」
ミサキは手のひらで乱暴に目元をこすって、立ち上がった。
「どこに行くつもり?布団に戻りなって。外は寒いよ」
「イヤなら白藍は残ればいい。わたしは、ハスミを探しに行く」
「放っときゃもどってくるって。一晩中寝ないで起きてるなんて、できるわけないんだから」
「……」
「ミサキ!!」
白藍を無視してミサキは、布団に投げてあった綿入れを拾った。裸足の足元から、冷たい夜気が這い上がった。
昼間とは違い、廊下の先は暗く無音だ。
白藍はまだ暖かい布団を諦めて、ミサキの後を追った。
***
どうして。
胸の内は、その言葉でいっぱいだ。
どうしてハスミは、わたしを置いていったのか。
どうして、遠野までいないのか。
どうして……。
どうして……、アキはわたしから目をそらしたのか。
疑問はぐるぐるとトグロを巻いて、ミサキの心を締め付けた。
「ミサキ、待てって」
暗い廊下の足元で、白藍が困惑したように声を上げた。
月明かりもない闇の中に、白藍の白い影だけが、ぼんやりと目に入った。
ミサキは指先で壁を確かめながら、白藍を抱き上げた。
「迷路みたいだ」
「部屋に戻れるのか?」
「さあな。戻れなければ、探しに来るだろう」
「ミサキ、そういうのを、ミイラ取りがミイラになるって言うんだ。絶対、部屋で待つべきだった」