あけぞらのつき
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小さく揺れるランタンの明かりに気付かれないように、ミサキと白藍は一定の距離を保って、追いかけた。
料理番もメイドも、深夜に屋敷の中で尾行されているとは思ってもいないようだ。
「なあ、ミサキ。あれが料理なのは確定として、箱膳はひとつだ。ハスミと遠野の夜食だとすると、数が足りないんじゃないか?」
「満腹で眠ったらいけないと、アキが言っていた。一人前を分けるんだろう」
「俺は、満腹で眠りたい」
「わたしだって。いつも夜食を半分、白藍に分けるのは嫌だった。アキが、白藍にやるなら食べても良いと言うから、仕方なしに」
「ミサキなんか、ここんちの朝飯、食べないじゃないか。それなのに、夜食は欲しいなんて、わがままが過ぎるぞ」
「今は、ちゃんと食べてる。朝から遠野とサシなのが嫌だっただけで、食事が嫌だったワケじゃない」
「遠野も変なヤツだよな。わざわざツイタテで仕切ってまで、ミサキと同じ部屋にいる必要はないのに。部屋ならたくさんあるじゃないか」
「遠野は変なヤツだけど、学校のメスには人気があるんだ。わたしには、遠野の良さがわからないが」
「学校かあ。あそこの中じゃ、遠野が一番、男前だな。メスに人気があるって、俺にはわかる気がする」
「白藍が?」
「ミサキのわがままに付き合えるんだ。女の扱いにも慣れてそうだし」
「白藍。遠野を誉めて、夜食を増やしてもらおうって魂胆だな。ずるいぞ」
「腹が減るのは、変な時間に起きたせいだろ。あのままシアターに戻れば、夜食と出会う事なんて、なかったんだ」
ミサキのせいだと、白藍が言った。
すでに二人の目的は、当初のものから外れている。ハスミの探索よりも、夜食の行方の方が気になるようだ。
「わたしは、うどんがいい。ネギと卵を入れてもらうんだ。本当は天ぷらの乗ってるのがいいけど、そこまでわがままは言わない」
「うどんなんか、食った気がしないね。昼間にアライグマを狩ったんだ。害獣退治。ここんちのメイドが誉めてくれた。死にたての肉が一番うまい」