あけぞらのつき


***

小さく揺れるランタンの明かりに気付かれないように、ミサキと白藍は一定の距離を保って、追いかけた。

料理番もメイドも、深夜に屋敷の中で尾行されているとは思ってもいないようだ。



「なあ、ミサキ。あれが料理なのは確定として、箱膳はひとつだ。ハスミと遠野の夜食だとすると、数が足りないんじゃないか?」



「満腹で眠ったらいけないと、アキが言っていた。一人前を分けるんだろう」


「俺は、満腹で眠りたい」


「わたしだって。いつも夜食を半分、白藍に分けるのは嫌だった。アキが、白藍にやるなら食べても良いと言うから、仕方なしに」



「ミサキなんか、ここんちの朝飯、食べないじゃないか。それなのに、夜食は欲しいなんて、わがままが過ぎるぞ」


「今は、ちゃんと食べてる。朝から遠野とサシなのが嫌だっただけで、食事が嫌だったワケじゃない」



「遠野も変なヤツだよな。わざわざツイタテで仕切ってまで、ミサキと同じ部屋にいる必要はないのに。部屋ならたくさんあるじゃないか」


「遠野は変なヤツだけど、学校のメスには人気があるんだ。わたしには、遠野の良さがわからないが」



「学校かあ。あそこの中じゃ、遠野が一番、男前だな。メスに人気があるって、俺にはわかる気がする」



「白藍が?」


「ミサキのわがままに付き合えるんだ。女の扱いにも慣れてそうだし」



「白藍。遠野を誉めて、夜食を増やしてもらおうって魂胆だな。ずるいぞ」



「腹が減るのは、変な時間に起きたせいだろ。あのままシアターに戻れば、夜食と出会う事なんて、なかったんだ」


ミサキのせいだと、白藍が言った。


すでに二人の目的は、当初のものから外れている。ハスミの探索よりも、夜食の行方の方が気になるようだ。



「わたしは、うどんがいい。ネギと卵を入れてもらうんだ。本当は天ぷらの乗ってるのがいいけど、そこまでわがままは言わない」


「うどんなんか、食った気がしないね。昼間にアライグマを狩ったんだ。害獣退治。ここんちのメイドが誉めてくれた。死にたての肉が一番うまい」

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