あけぞらのつき
「白藍」
言い訳めいた口調で、ミサキが呼んだ。
肉食の大型鳥類も、このシアターでは、ヒトのカタチを取っている。
アルビノのその鷹は、名を白藍(きよら)という。
スクリーンには、夢とも呼べないほど、断片的な静止画が、フラッシュしていた。
「食事の後の数学なんて、眠るなと言う方が無理な話だ」
「遠野が言ってただろ。定期テストがどうとかって」
「わたしには、関係ない」
「ミサキ!」
咎めるように、白藍が呼んだ。
「ミサキも、高校生になったと自覚してくれ」
「なりたくてなったわけじゃない」
人生でいつ使うともわからない数式を覚えるよりも、山でアキとハスミに薬草の見分け方を習う方が有益だと、ミサキは思う。
「大人になれよ、ミサキ」
少年のナリをした白藍が言った。
「誰が三年間も付き合うものか。遠野の捜し物をとっとと見つけて山に戻る。それが、わたしの目標だ」
一度言い出したら聞かないミサキの性格を、白藍はよく知っている。
俺の手には負えない。白藍はこっそりため息をついた。
***
淡く発光するスクリーンをぼんやりと眺めていたミサキの隣に、長身の人影が腰を下ろした。
彼が動くたびに漂う、甘いクチナシの香りに、ミサキは顔をほころばせた。
年の頃はハタチといったところか。
長い髪を首の後ろで束ねた、優しげな風貌をしている。
その髪は、混じる色の無いほどに白い。
「主様。お元気そうで、何よりです」
香りと同じ、甘く透き通った声で、彼が言った。