あけぞらのつき
胚胎
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古い映写機は、カタカタと音を立てて、ゆっくり回っていた。
夢さえも追いつけないほどの深い眠りについた主人の黒髪を、白い樹精は優しげな手付きで梳いた。
その手付きとは裏腹に、表情は苦渋に満ちている。
樹精の傍らに、金色の猫の目をした少年が座った。
「まだ……戻らぬか」
映写機は、いつものように映像を結ぶことなく、空転したままだ。
樹精は言葉を発することもできず、ただ静かに頷いた。
「左様か。まさか、あの様な形で出会うとは、俺も思わなんだ」
アキは何かを言い掛けて、口を噤んだ。
言わなければならないことはあるはずだが、そのどれもが、言葉にはならなかった。
「お嬢の体は、御曹司の計らいで病院で管理されるそうだ」
「……」
「あれは……」
ハスミは苦しげに眉を寄せた。
「あれは、茅花だった」
「ですが!」
アキは叫ぶように遮った。
「ですが、茅花は死んだでしょう。わたくしの目の前で……。確かに殺されたんです。長夜叉様の手で、確かに……」
アキは端正な顔を歪めて、涙をこぼした。
「茅花が生きているはずもないのは、よくわかっている。だが、似ていた。俺にはあれが、茅花じゃないという保証はできない」
「……」
「お嬢は気を失う前、茅花と呼んだらしい。遠野透(とおのすい)のことを」
「遠野……透?」
「ああ。御曹司の姉君だ。今は目覚めることもできないそうだ。理由は尋ねなかったが、おそらく……」
ハスミは、金の瞳を細めて言った。
「遠野の家系図に、スイの名はなかった。アキは、ミサキを長夜叉の生まれ変わりではないかと言ったな。ミサキの父が、遠野の嫡子だったのは、確かだろう。ではどうして、母も遠野の血縁ではないかと疑ったんだ?」
「……」
「何か、心当たりがあるんだろう」
重苦しい沈黙が流れた。