あけぞらのつき
「縁は、結ばれてしまった。持っててやれ。友人なのだろう?」
ミサキは裸足の足先に転がった、青い宝玉を拾って、遠野に差し出した。
「臨、というのか。そうか。兄上の……刹那の子か?」
「……長、夜叉……?」
「真面目そうなところが、刹那にそっくりだ。臨、お前は夢を渡れるのか?」
ミサキは懐かしげに目を細めて、微笑んだ。
本来のミサキからは決して向けられることのない笑顔に、遠野は戸惑いを隠せず、視線を彷徨わせた。
「臨?」優しげに呼ぶ声は、ミサキのままだ。
「……はい。あの、俺には……できません」
遠野が答えると、ミサキ……いや、長夜叉は安堵したように息を吐いた。
「では、血は薄まっているのだな」
「夢を渡るのは、女だけと聞いています。俺にその能力はありません。最後に夢渡りのできた刀自は、十年以上前に亡くなりました」
「そうか。オレのせいで、お前たちに業を背負わせてしまった。……すまない」
長夜叉は、遠野に深く頭を下げた。
「長夜叉……様。一体、今、何があったんですか?この玉は……」
大きさは、卓球のボール程度か。つるんと冷たい肌触りをしている。
「臨は、どこまで知っているのだ?」
「今見たことしか、知りません。タカユキは、まっくらだったのでしょうか」
「まっくら?ああ、今はそう呼ばれているのか」
可愛い呼ばれ方だな。と長夜叉は嘲るように笑った。
「あれはまっくらではない。入れ知恵されていたようだが。まっくら……ふふっ。アレが、術師を惑わすための、小芝居だろう」
「術師?」
「この場所の主だ。いるのだろう?他にも、刹那の子が」
長夜叉は、当然のように言って、遠野を見つめた。
「長夜叉様」
当惑する遠野に代わり、ハスミが長夜叉を呼んだ。
「お久しぶりです、長夜叉様」
「ハスミか?」
長夜叉は、異国の地で思いがけず同郷の知人に出会ったような、驚きの声をあげた。
「ハスミか?ハスミなのか!息災であったか?おお、相変わらず美しい瞳をしている。美しい、異形の瞳だ」
長夜叉は手を差し伸べて、ハスミの頬に触れた。ハスミは珍しく緊張した面もちで、長夜叉を見つめた。