あけぞらのつき
「どうした?久しぶりというのに。オレが怖いか?」
長夜叉の双眸に、好戦的な光が浮かんだ。
「……あれから、幾年月。またこうして、お目にかかれるとは……」
「そうか。怖いなどと抜かせば、業火に投げ入れてやろうかと思ったよ」
長夜叉はさらりと言って、豪快に笑った。
「それで、もう一人の刹那の子は、どこにいるんだ?会ってみたい。会って、詫びを伝えたい」
「……」
「どうした?その子はまだ、夢を操るのだろう?臨よりも深い業を負わせてしまったんだ。何と詫びればいいか……」
「……」
「ハスミ?」
「……。名を、鏡偲と」
「ミサキ…。女か?今、どこに?」
「長夜叉様です。俺が名を授け、クチナシの樹精が育てました。鏡偲は、長夜叉様の今の名です」
長夜叉は、その真偽を確かめるように、異形の瞳をじっと見つめた。
重い沈黙の中、薄暗いシアターをぐるりと見渡す。
そして、シートの端で跪いて俯いている白梔の姿をその目に認め、なるほど、と低く呟いた。
「長夜叉様……?」
長夜叉は、ゆっくりと白梔に近付き、その目の高さにしゃがんだ。
白梔は双眸から涙をこぼしながら、顔を上げた。
視線が交錯した。
「消え失せろ」
長夜叉はミサキの顔で微笑んで、冷たく言い放った。
白梔は傷ついた目をしたまま、朝日の中に霧散した。