あけぞらのつき
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ラムネ瓶の月がかかる。
古い映写機はもう、回らない。
眠りを拒むミサキは、幽鬼のように青白い顔で、奥座敷を探す。
それは、ミサキか長夜叉か。
遠野は、付かず離れずその姿を見守りながら、ため息をついた。
聞きたいことは山ほどにある。が、怖い。
盲たスイのそばでだけ、ミサキは束の間、眠りに落ちる。
あのシアターは、どこへ行ったのか。遠野にはその入り口を見つけることさえ、できなくなった。
茅花(つばな)とミサキは愛おしげに呼んだ。
姉はそれに答えることなく、白い布の巻かれた瞼の隙間から、涙をこぼした。
涙の意味は、歓喜か悲哀か。
次の間に控える遠野には、固く結ばれた絆が、幾重にも巻いて見えた気がした。
「御曹司」
「……ハスミ殿」
「ミサキは?」
「今は……眠っています」
「……そうか」
「あれは、ミサキなのでしょうか」
遠野の脳裏に、シアターで見た業火の有様が甦った。
希代の術師。目の当たりにした光景に、その異名はダテではないと痛感した。
「俺にも分からん。ミサキであって欲しい。だが、こうしてあの二人を見てしまうと、長夜叉様として茅花と添い遂げて欲しいとも思う。どちらが、幸せなのだろうな」
「茅花……。あれは、スイです。俺の姉の。スイ、なんです」
「家系図に、名はなかった。御曹司には、あれが姉である確証はあるのか?」
「確証は……ありません」
「……すまない。俺にも、あれが茅花だという確証はない。ただ、あまりにも似すぎているんだ。長夜叉様の、かつての恋人に」
「恋人?」
「ああ。茅花は、長夜叉様の手で殺された、かつての恋人だ」
ハスミは重いため息をついた。
「だが、遠い昔の話だ。茅花が生きているわけもないのは、俺が一番よく知っている。それでも、あれは茅花なんだ。長夜叉様が、その生涯で唯一愛した女だ」