あけぞらのつき
「スイが茅花だったから、長夜叉様はミサキとして生まれた?」
遠野はハスミの言葉を反芻した。信じたくはない。
だが、ミサキのシアター、業火の光景、そして、小野寺仰以。
長夜叉が、持っていてやれと言った青い宝玉は今もポケットの中だ。
ハスミは推測と言ったが、遠野にはそれが真実のように思えた。
幼い頃から、あれは姉だと聞いて育てば、ただそうなのかと思っていた程度だ。
スイは臨と同じ母から生まれた、兄の子だ。
鈴を転がすように涼やかに「りん」と呼ぶスイの声が、耳に甦った。
「スイは……知っていたのでしょうか」
「さあな」
「知ってしまったとしたら、スイは……」
茅花と呼ばれて流す涙は、悲哀の涙か。
「御曹司……」
「もしミサキが長夜叉様として、完全に覚醒されたら、ミサキはどうなってしまうのでしょう」
「俺にも分からんよ。長いこと生きてきたが、こんな話しは初めてだ」
「ミサキの……。禁域の樹精は……」
ハスミは黙って首を振った。
クチナシの樹精が、手中の珠と育てた少女は、なぜ、微笑みながら消え失せろと囁いたのか。
「長夜叉様は、樹精の友人であり主人だったと言っておられませんでしたか?」
「……」
「何が、あったんですか」
空が、白み始めた。
紅い目をしたアルビノは、ぱさぱさと羽根を振るわせた。
孤高の眠り姫が、双眸を開いた。