あけぞらのつき
甘えるように胸に頬を押し当てて、もう嫌だと小さく呟いた。
アキはそんなミサキを、守るように抱きしめた。
「俺も、嫌われたものだな」
遠野が皮肉気な口調で言った。
「わたしが嫌いなのは、お前だけじゃない。アキ以外、全部だ」
「それはそれは」
遠野がからかうように笑う。
顔を合わせれば、皮肉の応酬ばかりの二人に、アキはまたかとため息をついた。
「どうしてここに?御曹司が眠るには、まだ早いでしょう」
アキは、ミサキを抱いたまま尋ねた。
「本体が発見されたと、報告があった。ミサキにも教えてやろうと思ってな。いびきをかいて眠っているのを、無理に起こすのも可哀相だ。それに、お前のペットは、なかなかいい仕事をするじゃないか」
遠野は手の甲にできた、新しい傷を見せながら、笑った。
「本体?」
興味なさげに、ミサキが言った。
「ああ、探していたものの本体だ」
遠野はゆっくりとした足取りで舞台を降りて、客席の絨毯を踏んだ。
「そうか、見つかったのか。ではもう、協力する必要はないのだな」
ミサキは嬉しそうな口調で尋ねた。
「まだだ。見つかったのは、本体だけだからな」
「御曹司が探しているのは、ヒトだと言っていたね。ヒトの本体が見つかったということは、それは、死んだ体だったと言っているのか?」
「当たらずとも遠からず、だ」
「どういうことだ?」
「体は生命として機能している。呼びかければ、返事もする。だが、中身はまだ、行方不明のままだ」
遠野は、ため息とともに、狭いシートに腰を下ろした。