あけぞらのつき
「お嬢には、そう見えていると?」
「ハスミには見えないのか?」
遠野は、ハスミ殿と呼びかけて、ポケットから青い宝玉を取り出した。
「これは、何だと思いますか?」
ハスミはそれを受け取って、太陽の光にかざした。欠けたところの無いほど、つるんと青く輝いている。
不思議そうに青い宝玉を検分するハスミを遠巻きに、ミサキは「ハスミには見えないのか?」と繰り返した。
「さっきからお嬢は、何を言っている?」
ハスミは呆れた口調で、ミサキに尋ねた。
「だって、ハスミも遠野も、見ようとしないから見えないんだ」
「何の話しだ?」
それ、とミサキは青い宝玉を指した。
「それとあれは、同じものだ」
ミサキは、あれと言って、病室の小野寺を指した。
***
あのシアターがあれば。遠野は病室の小野寺を指すミサキに、ホゾを噛んだ。
ミサキが見ているものを見たいと、切望した。
だがそれは、長夜叉の覚醒を意味している。
ハスミを見ると、心得ているというように頷いた。
古い映写機は、回らなくていい。
二人の様子を、ミサキはじっと見ていた。
「お嬢?」
「ハスミと遠野が、わたしに何かを期待しているのは、わかっている」
「何の話しだ?」
「その玉の話しだ。わたしには、それとあれは同じにしか見えない」
ミサキは、青い宝玉と病室を交互に指して言った。
「その期待と、わたしの夜が消えてしまった理由は、きっと同じものだろう」
「俺がお嬢に望んでいるのは、健やかな成長だけよ」
「いいや、違う。ハスミは嘘をつくとき、右目を細くする癖があるからな」
勝ち誇ったように言ったミサキに、ハスミは思わず右目を押さえた。そこにはいつも通り、白い眼帯が貼られている。
ミサキはハスミを見て、ニヤッと笑った。
「やっぱりな。ハスミ、わたしの夜は、どこに消えたんだ」
「それを知って、お嬢はどうする?」
「どうもしない。ただ確かめたいだけだ。わたしのここにいるのは、誰なのかを」
ミサキはそう言って、両手で胸を押さえた。