あけぞらのつき
終わり、始まり
***
始まりは、小野寺仰以の神隠しだ。
手がかりを求める内に、遠野臨は神森鏡偲と出会った。
鏡偲は禁域で生まれ育った夜叉の姫、クチナシの巫女だと聞いていた。
彼女を遠野家で預かるのは、小野寺仰以が見つかるまで。遅くとも3年。その約束だった。
発見された小野寺仰以は、動く死体と青い宝玉だと言う。
死体を動かしているのは、縁切り榎木。その目的は、呪いの成就だろうと、鏡偲は言った。
エモノは若い男。そこまでは、わかっている。
俺たちは一体、どこへ向かおうとしているのか。
遠野臨は、公園の地面いっぱいに描かれた家系図を前に、ただ呆然と立ち尽くした。
「わたしには、小野寺が死体と玉に見える。だが、ハスミと遠野にはそうは見えない。気付いたんだ」
ミサキは手に持った枝を投げ捨てて、遠野を見上げた。
「気付いた?」
「ああ。小野寺の他に、わたしに見えてお前に見えないものがいた」
ミサキはそう言って、太陽に手のひらをかざした。
「ハスミは何もないと言ったが、わたしは確かに見たんだ。メイドの手に大きな傷があった。小野寺と同じだ」
「見えない傷……」
この箱があれば、とミサキは地面に描いた映写機を指した。
「この箱があれば、遠野もわたしと同じものを見ることができるのだろう?」
「だが、それは現実に存在するものではない」
ハスミは、線を踏まないよう、ミサキに近付いて言った。
「お嬢」
ミサキに近付いて、その手を握る。
「お嬢、その覚悟があるのか?」
「わたしにとって、今より悪い事態はないよ、ハスミ。わたしはきっと、消えた夜の中に、大切なものを置いてきてしまったんだ」
ミサキは花のようにふんわり、そして切なげに笑った。