あけぞらのつき
結末へ
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遠野臨は、その光景を見ていた。ただ見ることしかできなかった。
ミサキに名を呼ばれたことで、影は本来の姿を取り戻したように見えた。だが、それは本当にミサキなのか。
ミサキは手の中の眼球に、目を落とした。
「あの時、死のうとした体が悪夢を見せたのか、悪夢を見たせいで死んだのか、わたしにはわからない。でもたかが、夢の話しだ」
ミサキは榎依にゆっくり近付いた。
榎依はケロイドに引きつれた顔を歪めて、ミサキを睨んだ。
「お前が生まれ変わった、ということで、成就にはならないか?」
「成……就……」
「そうだ。お前が解放してやらねば、アイツの友人は悪夢に捕らわれたまま、戻れないからな」
「成就など!目的は……」
「言ったろ?お前のエモノは、最初から見当違いだったと。ここはわたしのシアターだ。榎依。お前を滅して解放させることもできるのだぞ」
榎依は顔のケロイドを押さえて、後ずさった。
ミサキは、刺し貫かれた傷の残る手を掴んで、金属片の刺さった眼球を握らせた。
「成……就…」
「ああ」
「……。今回は……」
「うん」
「今回は、クチナシの巫女に免じてやる。だが、次はない」
榎依は、ミサキに手を握られたまま、涙をこぼした。
ミサキは榎依の手を握ったまま、花のように笑う。
「次はない、か。夢でよく聞くセリフだな。一つ覚えも芸がない」
「……」
「寂しくなったら、ここに来い。気が向けば、相手をしてやるよ。次も、その次も」
榎依は唇を噛んで、ミサキを見つめた。
涙にまみれたその表情は、慣れない笑顔を浮かべようとしているようだった。