あけぞらのつき
同床異夢
***
「終わったのか……」
遠野は、誰にともなく呟いた。
「終わったよ。何もかも」
ミサキは、遠野のブレザーのポケットを探り、青い宝玉を取り出した。
「友人なのだろう?お前の手で、返してやれ」
「返す?どうやって」
古い映写機がカタカタと回り、スクリーンには白い病室が映し出された。
腐敗の進んだ小野寺仰以が、点滴を打たれながら眠っていた。
「投げろ」
ミサキは何でもないことのように、そう言った。
「投げる?」
「ああ。あいつに向かって投げるんだ。刹那の子なら、できる」
遠野は半信半疑のまま、スクリーンに映る小野寺仰以に向かって、青い宝玉を投げた。宝玉はスクリーンにぶつかることなく、吸い込まれるように、消えた。
「見てみろ」
遠野の目の前で、宝玉は青いシミとなり、小野寺仰以の姿となった。ミサキが見ていたのは、青いシミのような小野寺の姿だったのだろう。
青い色は、死体に被さるように広がった。
白骨に、新しい肉が盛り上がる。
「死体が……生き返った?」
「よかったな、手遅れになる前で」
ミサキは体を伸ばしながら、呆然としている遠野の肩を叩いた。
「これで、臨のやっかいごとも決着だな」
***
「まだです。長夜叉様」
舞台の袖から、金の瞳の修験者が言った。
「なんだ。バレておったか」
ミサキはさらりと言って、豪快に笑った。
「許しては、やれませんか?」
「許す?」
「はい。樹精の過ちを」
「ハスミ」
「……はい」
「お前は、最愛の者を手にかける苦しみを知っているか?」
「……」
許せるわけがない。ミサキの声で、長夜叉が言った。
古い映写機がカタカタと回る。
スクリーンは青く光ったままだ。
水の中だろうか。時折小さな空気の泡が、浮き上がっては消えていった。
「ですが、長夜叉様。鏡偲にとってあの樹精は、たった一人の守護者でした。あの子の心を支えていたのは、あの樹精に他なりません」
「……」