あけぞらのつき
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小野寺仰以(おのでらたかゆき)。
古い映写機が、カタカタと音を立てて回り始めた。
スクリーンに映し出されているのは、白い病室だろう。
これはまだ新しい、遠野の記憶のようだった。
ベッドに体を起こした少年が、ぼんやりした眼差しで、こちらを見上げた。
「これが、本体?」
「ああ、小野寺仰以という。半年前、突然行方がわからなくなり、今日、発見された」
「ただの家出じゃないのか。寂しくなって戻ってきたんだろう」
ミサキは興味なさげに言って、アキのカラダを抱きしめた。
「寂しいのはお前だろう」と、遠野が笑った。
「俺の添い寝では、不満か?」
「遠野の添い寝?気持ちの悪いことを言うな」
「だが、今、お前の本体の隣で眠っているのが、俺だということは、覆らない」
「……。山に、帰りたい」
遠野はわざと、ミサキの嫌がることを言う。
反応を見て、楽しんでいるだけで、実際は触れることすら不可能だと、アキは知っている。
そのための白藍だ。
アキは膝の上でぐずる主人をあやして、遠野を咎めた。
「家出や連れ去りの可能性は低いと、半年前、所轄署が結論を出した」
「でも、いなくなったことは、確かなのでしょう?」
「ああ。だから、うちに相談に来たんだ。……神隠しではないかと」
懐に飛び込んできた窮鳥を放っておくことはできないと、遠野はため息混じりに言った。
「人の手の届かないところに、紛れてしまった、と?」
「特に母親の憔悴ぶりが痛々しくてな。どんな小さな事でもと縋られてしまえば、手を振り払うなんてできん。それで、古い縁を頼りに、お前たちにたどり着いた」