あけぞらのつき
「縁切り榎木を許したように」
「……」
「ご友人、だったのでしょう?」
「だからこそ。だからこそ、尚のこと。どうして……」
どうして!と叫んで、ミサキは両手で顔を覆った。
「アキに……会いたい……」
「お嬢?」
会いたいと訴えるその口で、許さないと叫ぶ。
ミサキの中で、相反する二つの感情がせめぎ合っているようだった。
「アキは、わたしのものだ。ずっと昔から、わたしだけのものだった。許さない?そんなのは、知らない。アキに罪があるのなら、贖せればいい。わたしのそばで」
重い鎖を振り払うように、ミサキが叫んだ。
ミサキの姿は二重写しとなり、影の中から、かつて希代の術師と呼ばれた少年が、その姿を現した。
「手遅れ、だよ」
嘲るように、歌うように、長夜叉が言う。
「樹精は死ぬ。今はもう、水の中だ。助けは間に合わない」
「うそだ!」
「うそなものか」
長夜叉は、スクリーンを指した。それは水の中を漂う、白い影だ。時折空気の泡を吐きながら、水底へと沈んでいく。
「アキ!!」
ミサキは悲痛な叫び声を上げた。
「ハスミ!!アキを……アキを助けて。お願いだ」
「お嬢……」
ミサキはハスミの襟を掴んで、必死に訴えた。
「遠野とも仲良くする。学校にもちゃんと行く。後生もいらない。だから……ハスミ……」
「あれは、オレを裏切った。その命を以て償うのは当然。むしろ今までのうのうと生きておったことの方が、どうかしておる」
ハスミにすがるミサキに、長夜叉は冷たく言い放った。
「アキは、わたしを裏切ったりなんかしない」
「オレも信じていたよ。だから茅花を……、最愛の者を託したんだ。だが、あいつは裏切った。茅花を殺さなければならなかったオレの気持ちが、わかるか?」
「そんなこと、どうでもいい!!」
「ど……どうでも……」
叫んだミサキの双眸に、長夜叉が怯んだ。
「お前だって、空気がなければ死ぬだろう?生きるために、あって当然のものがあるだろう?わたしはアキがいなければ、生きてゆくことができないんだ」