死の代償
「ですから、悪魔ですってば。ほら、その机の上を見て御覧なさい」

 男が、指差した方へ視線を動かす。

「え?カッターが浮いてる?」

 そこには、さっきほっぽったはずのカッターナイフが、机の上に斜めに浮いていた。

 さっき変に思ったのは、カッターナイフが机に落ちる音がしなかったからだ。

「ですから、時間を止めたんです。まあ、正確に言えば、あなたを周囲の時間から切り離したんですけれどもね。だから、あなたからある程度離れると時間が止まってしまうのです。こんなこと人間には出来ないんですよ。わたくしは、このレベルの時間概念に囚われないので、この様なことができるのです」

「でも、だからって、悪魔とは限らないんじゃないの?それに、ほら、悪魔らしくないし、そのかっこ」

「そうですね。確かに、わたくしは悪魔ではないです。

本来、名前などどうでもよいことなのですが、皆さんがわたくしの事を悪魔とか死神とかおっしゃるので、最近では自分のことを悪魔と称しているのです。

事実、大概の悪魔の仕業とかいわれる事象に、わたくし関わっておりますし……それと、この姿ですが、これはあなたが抱いている恐怖とか不安とかの心象イメージを元に構成されているのですよ。

どうやらわたくしの姿というのは、その人の持つ恐怖、不安、嫌悪感などの心理像を元にして視覚に構成されるようでして、はい」

「それにしては、全然怖くないわよ。まあ、ちょっと不気味だけど」

「それはまあ、そうでしょう。そんなものを生で見せたら人間の精神では耐え切れませんよ。だいぶわたくしの方で干渉して抑えているのです。まあ、あなたの場合そのての感情が他の人より幾分薄いようですが」

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