死の代償
「残念ですが、違います」

「違うの?」

 美雪はちょっと考えた。

 この際だから聞いちゃおう。

「じゃ、聞いていい?」

「どうぞ」

「死ぬってどういう事なの?死んだらどうなるの?」

 悪魔は、ちょっと腕を組んで首を傾げた。

 まるで、話してもいいかどうか迷っているようだった。

 美雪にはそのもやもやした顔が困っているように見えたような気がした。おかしい。

「まあ、よろしいでしょう」両腕を腰に当てて諦めたように悪魔は言った。

「死ぬというのは自我の終焉の事です。

そして死ぬとその魂は、四つ先の次元に満ちた生命塊に導かれて全となります。

ちなみに生誕というのはその逆で、この次元で生まれた身体に生命塊から魂をひとかけら導いてあげるのです。

そのときから自我が始まります。

つまり、生命は生と死、全から個へ、個から全への繰り返しで成り立っているのです。判りましたか?」

「それだけ?」

「これだけです。わたくしは四つ先の次元とこの次元の間を魂が迷わないように導く仕事をしているのです」

「天国とか地獄とか閻魔さまとかはないの?」

「ありません。

生命塊というのは純粋なエネルギーの集合体です。そこに世界があるわけではありません。

魂というのは自我を持った生命エネルギーのことですから」

「幽霊もいないの?」

「いません」


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