死の代償
「うんめい?」

 美雪は、そのあまりにも陳腐な響きに、思わず聞き返してしまった。

「そう、運命です。人に限らず全ての生命の終焉は運命によって決まっているのです」

「だれが決めてんのよ、あんた?」

「わたくしはその係じゃありませんよ。

それは魂を生命塊から運んでくるものの仕事です。

まあ、あちらはよく天使なんて呼ばれてますけど、仕事が違うだけでわたくしと同じ存在です。

わたくしたちはこの次元の時間の概念の外にいますので、魂を肉体に移すときに周囲を時間ごと眺めて、適切と思われる基礎的な人格と運命を刻んでから封入するのです」

「はにゃ?」

「つまり、人は生まれたときには死ぬときが決まっているのです」

「でも、でもでもでも、運命って自分で切り開くものじゃないの?」

 どことなく納得がいかない美雪は聞いてみた。

「違いますよ。すべてはわたくしたちの予定調和の範疇での事象ですからね」

「でも、偶然って言葉もあるじゃない」

「言葉はね。

でも、偶然というものはないんですよ。

すべての事象は必然で成り立っているのです。

偶然飛行機に乗り遅れて、その乗り遅れた飛行機が偶然事故を起こして墜落するのも、すべて運命によって決めていたことなのです。

もちろん、あなたたち人間から見れば偶然かも知れませんが、何度も言いますように、わたくしたちはこの次元の時間の概念の外にいますので……」


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