死の代償
「だったら、クレオパトラの鼻を三ミリ高くしてくればいいでしょ。

あなたに時間の概念がないなら出来るはずよ」

 美雪は、今までの悪魔の発言を思い出して言った。

「確かに、わたくしにはその様なことができます。

ですが、それをすることによって派生する揺らぎをさらに修正していくことを考えると、

今あなたの自殺を止めさせるほうが効率がいいのです。

なにしろ、あなたに自殺を止めてもらうだけで他の修正をしなくてもよいのですから」

「随分ご都合主義ね」

「はい、なにぶん運命と言うのは決まっていますので」

 そこで、美雪の好奇心がまた疼き出した。

「あのさ」

「なんでしょう」

「そんなにあたしが自殺するのを止めたいんならさ、いったい、あたしが自殺するとなにが起きるのか教えてよ」

「えぇ、まぁ、いろいろ起きるのですけれど。

最終的には、十年ほどで運命の操作が完全に破綻して、時流体が崩壊してしまうのです。

そうなるとわたくしたちの作業も不可能になりますので、この次元を放棄せざるを得なくなるというわけです。

大変でしょう」

「大変なの?」

「大変なんです」

 その言い様に、美雪はなにか引っ掛かるものを感じた。

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