死の代償
 いやそんな事はなさそうだ。

 だれかが死んでも、だれかがおしゃべりをしているだろうし、

学校の勉強も部活もバイトもメールもだれかがやっているだろう。

 じゃあ、死ぬって事はなににも影響しないのだろうか、そういった社会的な関わりに。

 だから自殺する人は関わりに影響を与えようとして、遺書で強く社会に意思表示するのかな。

 死ぬとその人がいなくなるのは判る。

 もし、だれかが死んだとして、自分の回りで何かが変わるだろうかと美雪は天井を眺めながら考えた。

 だれにしようか。

 こういうことを考えるときは、知ってる奴を殺してみるに限る。もちろん、頭の中だけで。

 美雪は試しに、いつもおしゃべりしていて、仲の良い相原克美が死んだことにして考えてみた。

 さっき考えてた通りになった。

 彼女が死んだって世の中は動いていく。

 ただ、おしゃべりの相手は変わるし、自分も含めて、彼女を知る皆が悲しむだろうと思った。

 そこで気が付く。

 死んで社会には影響を与えないけれど、その人を知る人の気持ちには影響を与えるのだ。

 それが肉親ならなおさらだろう。

 でも、それも最初の間だけというのも理解できた。

 人は死ぬと他の人の記憶に止まるだけで、時間が経てば記憶が薄れて、

単なる思い出の一部になってしまうのだ。それが日常の一部になってしまえば、

人は、気にしなくなるものなのだ。

 それは、美雪の大好きだった祖父が死んだ時のことを考えれば良く判った。

 最初は悲しかったけれど、死んでいなくなったことが当たり前となり、

それを無意識に理解すると祖父の存在は思い出の中だけのものになる。

 それも時間が経つにつれて薄くなり、命日にお線香をあげたり、

お彼岸にお墓参りに行く時に思い出すだけになってくる。人は思い出だけでは生きていけない。

 毎日の生活が記憶の扉を閉めてしまうのだ、一つずつ。





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