死の代償
「へっ?」

 これには美雪も驚いた。

 だってここは自分の部屋だし自分はこうして生きている。

 ただし、悪魔が一緒だけど。

「確かに、わたくしは時間を止めてあなたと話していますが、

この部屋はあなたの意識に投影された時間の止まったあなたの部屋の像なのです。

つまり、ここはあなたの頭の中で想像している場所で、

現実のあなたは自室で手首を切って机に突っ伏して死んでいるのです。

ああ、死んでいると言うのは肉体的にと言うことですけどね。

介入するのが遅れてしまったので、とりあえずあなたの魂だけ修復して時間を止めたのです。

ですから、今あなたは魂だけの存在、つまり死んでいるのですよ。

判りましたか?」

「えっ!」

「ですから、わたくしとこうして話ができるのです。

最初に言ったでしょう、

わたくしは見る人の不安や恐怖、嫌悪感などの心像イメージとして視覚に投影されるって。

この部屋はわたくしがあなたの中に作ったあなた自身の精巧な疑似空間なのです。

現実の空間では、この次元の時間概念の外にいるわたくしたちをあなた方は認識してくれませんから、

直接話すときはこの様に相手の意識の中に疑似空間、

まあ、精神世界と言うか夢と言うか、好みの問題ですけど、を利用しているのです」

「でも、なんで直接あたしと話さなきゃいけなかったの?

あたしが認識できないだけで、あなたは、えーと、介入できるんでしょ、あたしの傷を治すとかさ」

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