死の代償
「知らないわよ。

気が付いたらここにいたんだもの。

なんであたしが自殺……」

 左腕の違和感に気付いて、美雪は左腕を見た。

 手首には包帯が巻かれ、点滴がつけられていた。

 そして、重く、感覚がない。手も動かない。

 医師は、痛み止めのせいだと言った。

 手首の腱も切れていたので、左手が元のように動くには暫くリハビリが必要とも言った。

 その言葉を聞きながら美雪は自分が覚えていなくとも、手首を切って自殺したのだと言う実感が湧いてきた。

 なんだか怖くなって身体が震える。

 確かに自分でやったことなのに覚えていないことが怖かった。

 急に震え出した美雪に医師は諭すような言葉で落ち着かせ、ゆっくり休むように言った。

 結局、何等かの原因で美雪の自殺前後の記憶が飛んでしまったと言うことしか判らず、

美雪の自殺の原因は判明しなかった。

 やがて美雪は退院し、暫くのリハビリの後、左手も回復した。

 ただし、左手首には傷跡が大きく残ってしまった。

 しかし、なんとなく、美雪は傷跡を消さないまま、元の生活を再開した。

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