死の代償
「はい、これがあなたの運命です」

「これがあたしの運命か。

旦那もできたし、子供もできたのに、これであたしの人生終わりってわけね。

子供は無事に生まれたんでしょうね」

「やはり、気になりますか?」

「そりゃあ、10月10日もあたしの一部だったんだもの」

「ご無事ですよ。

先程天使が魂を封入したばかりです。

あなたの息子さんに」

「そうかぁ、男の子か。

女の子がほしかったんだけどな。

ま、いいか。あたしと旦那の愛の結晶には変わりないんだからね」

「おや?お医者さまに性別を教えてもらわなかったので?」

「あたしそーいうの嫌いだもの。

でもねぇ、結局赤ちゃんの顔を見ずに死んでしまうのね。

あ、もう死んでるんだっけ」

 美雪は、懐かしい思いを込めてゆっくりと部屋を見回した。

 机の上にカッターナイフを見付けたとき、無意識のうちに右手で左手首の傷跡をなぞっていた。

 傷口はうっすらとピンク色の肉の盛り上がりとして残っていた。

 消すことは出来たのだが、結局なんとなくそのまま残してしまっていた。

 なぜだかその傷だけが失っていた記憶を覚えているような気がして、

その知らない自分を覚えている傷になんだか愛情が湧いていた。


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