死の代償
 気が付くと、美雪は机に突っ伏していた。

 眠っていたようだ。

 机の上でぽつねんとしているアナログ時計の文字盤を見る。

 針は十二時を差していた。

 お昼ってことはないから夜中だろう。

 そこで、ふと違和感が湧いた。

 何だろう。

 すぐに気が付いた。

 時計が止まっている。

 いつもひくひく回っている秒針が文字盤の六の位置で止まっている。

 電池でも切れたのかな、そう思って、机の脇にほっぽってあるケータイに目をやる。

「止まってる」

 ケータイの時計も止まっていた、十二時で。

 そして、気付く。

 あたしは何をしていたのだろう。

 たしか、死のうとして、カッターナイフを左手首に……。

「あれ?変だな。何ともないや」

 左手首をまじまじと見てみるが、白い手首は傷一つ付いていない。

 カッターナイフは刃が収められたまま、机の隅に転がっていた。

 おかしい。あれは夢だったのかしら。それにしてはやたら現実的な夢だ。夢なら夢らしくもっと幻想的でなきゃいけない。だったらあれは夢じゃなくてほんとのことなのだろう。

 そう考えてみると左手首を切ったような気がする。

 カッターで柔らかくて硬いものをごりゅっと切った感覚が右手に伝わったような気がする。

 痛みは、痛みは思ったほど無かったような。

 思いきり良く一気に切ったから、痛みは余り感じなかったと思う。

 変だな、なのになんともない。

 こういうのって気持ち悪い、そう、それならもう一度。

 美雪は、さっさとカッターナイフを手にとり、刃を一杯まで伸ばして、左手に当てた。

 今度こそ、いくぞ。

 力一杯素早く一気に引けば簡単に切れるはず。一度やったことは忘れない。

 刃を手首に押し付ける。

 そして、引……



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