2番目に君を、愛してる。
新藤さんの返事を待たずにトレイに駆け込んだ。
手を洗い、じゃぶじゃぶと顔を洗う。
隣の洗面台にいた高校の制服を着た女の子が驚いたように私を見た。
目が合った女子高生は頬紅をつけて真っ赤な唇を引いていた。
今まで必要のない経費は切り捨ててきたけれど、もっときっちりとメイクの勉強をしておけば良かった。せっかく新藤さんが"彼女気分"で良いと事前に言ってくれたのに。
最初から今日という日を台無しにしている己が腹ただしい。
きちんと新藤さんに謝ろうと決意してトイレを出ると、彼は入る前と同じ場所で待っていてくれた。
「洋服は汚れてなくて良かったね」
「はい」
新藤さんはそっと私の手をとり、歩き出す。
他のカフェに案内してくれようとしている。
「私、さっきのカフェが良いです」
「どうして?」
「また同じ女の人と会っても、ちゃんと自分で言いますから」
「君はなにも言わなくていいよ」
「え?」
「なにをされるか分からないだろう。君は俺に助けを求めればいいんだよ」
「新藤さんまで私を子供扱いするんですか?」
静かな館内で声を抑えて抗議する。
あなたが来るまで私はひとりで生きてきた。
兄の助けも借りたし祖父の援助もあったけれど、ひとりの時間が多く、困ったことは自分の力で解決してきた。
「確かに子供扱いしていることもあるけど、君は未成年なんだよ。もっと大人を信用しても良いと思う」
「だったら最初から"彼女気分"なんて言わないでください!結局、みんなは私を子供扱いするんです!私と対等に接してくれるのは青山先生くらいで、みんな私のことなにも知らない子供だと思って…」
思わず声を張り上げた私を見て、新藤さんは笑った。
いつものような温かい笑みではなく、先ほどの女性に向けていたような冷たい視線だった。
「それならここにも、青山先生と来れば良かったね」
そう言って彼は、私の手を離した。